縄文時代、弥生時代、古墳時代、飛鳥時代、平安時代など日本古代史の出来事と検討課題の考察を行う。考古学の成果も取り入れ、事実に基づき、合理的な歴史の再構築を図る。

東大寺山古墳(とうだいじやまこふん)は天理市櫟本町に所在する全長約140メートルの前方後円墳である。築造時期は4世紀後半である。

概要

奈良盆地東縁の沖積地で70mの低丘陵の尾根上に位置する。かつては東大寺領であった名残から東大寺山と呼ばれる。1961年(昭和36年)1966年(昭和41年)に天理大学付属天理参考館による発掘調査がされ、後円部から葺石と円筒埴輪列のほか、靫形・甲冑形埴輪が検出された。2010年に精緻な実測図を掲載した調査報告書が刊行された(参考文献1)。

造成時期

古墳は4世紀末から5世紀初頭(古墳時代前期後半から中期初頭)に造られた前方後円墳である。「ワニ」氏の有力者が葬られた古墳と考えられている。埋葬施設は長大木棺を大量の粘土で包んだ粘土槨と呼ばれる形式で、もっとも古い時代の部類に属する。
行燈山古墳と渋谷向山古墳の間の時期の築造とみられる(参考文献3,p.201)。

出土品

1961年〜1962年の発掘調査で、後円部の埋葬施設から武器・武具・石製品・玉類など多量の副葬品が出土した。木棺は棺床に撒かれた水銀朱の範囲から長さ7.4m前後の長大な棺とみられる。
後円部粘土槨内から、翡翠製勾玉、翡翠製棗玉、緑色凝灰岩製管玉などの玉類62点、腕輪型石製品(鍬形石26点、石製品(車輪石23点、石釧1点)、鏃形48点、坩形13点)、素環頭太刀7点、青銅製環頭8点を含む鉄刀23点。鉄剣14点、鉄槍10点、鉄鏃70点、単甲2点、草摺2点、革製漆塗盾1点などの鉄製武器・武具、鉄製工具類、巴形銅器7点
その中に家形の飾りを付けた三葉環頭大刀や刀身に中国後漢時代の年号(中平年間)を表した金象嵌をもつ大刀などが出土した。大部分は1968年と1970年に国保有となり、1982年に重要文化財に指定された。その後2001年に東京国立博物館に移管された。

類似品

巴形銅器としては佐味田宝塚古墳(奈良県)と同型であり、金海大成洞88号墳出土品(韓国金海市)とよく似ている。金海大成洞88号墳の巴形銅器は日本列島で製作されて朝鮮半島に伝わった倭系の遺物と言われる。東大寺山古墳の被葬者が金官伽耶と交渉していた人物であり、中国系遺物を金官伽耶を通じて入手した可能性もあるが、ヤマト王権が金官伽耶との交渉を通じて入手したものを東大寺山古墳の被葬者に分与した可能性もあるとされる(参考文献3,p.204)。
金錯銘花形飾環頭大刀が注目されている。この大刀に24文字の金象嵌の銘文があり、後漢の年号「中平」(184年〜190年)の銘をもつ。年の部分は判読できない。
中平□□(年)五月丙午造作文(支)刀百錬清剛上応星宿下避不祥」
中平は後漢の年号で184年から189年である、長さが1メートルを超える太刀を弥生時代から古墳時代前期までに日本列島では製造技術はまだない(参考文献3,p.201)。

紀年銘をもつ日本最古の遺物で、中国製刀身部を改造して三葉環頭を基に退化した直弧文ないし竜文を施した日本列島独自の環頭部に交換したとみられる。現在は国宝指定されている。2世紀後半の大刀が、4世紀の古墳から出土したので、150年間伝世したことになる。直弧文は日本列島独自の文様であるため、柄頭は日本列島で作られたものとされる。大刀は2世紀後半に中国大陸で製作され、日本列島に運ばれ、4世紀に柄頭が取りつけられた、とする説が有力となっている。さらに卑弥呼が中国の皇帝からもらった大刀であるとみる見解がある。中平は後漢の霊帝の時代の年号であり、184年から189年を指す。「倭国乱」(『魏志』倭人伝)「倭国大乱」(宋書)が終結した時期、2世紀の末である。卑弥呼の就任時期と近接する。分析によれば、金象嵌の「金」は99.3%以上の純金で、不純物の銀を取り去った技術としては、5世紀の稲荷山鉄剣では銀が10〜30%含まれているのと比較して、技術が高度である。
  • 重文指定年月日:1972年5月30日
  • 国宝指定年月日:2017年9月15日

盗掘

1961年と鎌倉時代の2回の盗掘があり、粘土槨北端が破壊された。1961年の盗掘は地元民によるものであった。

諸元

  • 全長:約130m
  • 後円部径:約80m
  • 前方部幅:約50m

アクセス等

  • 名称:東大寺山古墳
  • 所在地:櫟本町高塚2525−1−1
  • 交通:JR西日本櫟本駅から徒歩約25分
  • 見学:天理教域法大教会の裏にある。見学自由(天理教城法大教会受付に古墳見学を申出る)

参考文献

  1. 東大寺山古墳研究会編(2010)『東大寺山古墳と謎の鉄刀』雄山閣
  2. 東京国立博物館、九州国立博物館編『重要文化財 東大寺山古墳出土 金象嵌銘花形飾環頭大刀』同成社
  3. 坂靖(2020)『大和王権の古代学』新泉社
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