赤漆文欟木御厨子(せきしつぶんかんぼくのおんずし,Red Lacquered Zelcova Cabinet)は正倉院に収蔵されている観音開きの扉を持つ収納具である。
概要
復元
国家珍宝帳
2つの問題点
第一の問題点
第二の問題点
展示歴
管理
参考文献
概要 
国家珍宝帳に記載された宝物である。文欟木は木目の美しい欅材をいう。類似の名称をもつ「赤漆欟木厨子」は失われているが、百済の義慈王から藤原鎌足に贈られたものという(参考文献3)。「赤漆文欟木御厨子」に聖武天皇「雑集」や元正天皇「孝経」、王羲之の書、小刀などが納められていた。「赤漆欟木厨子」には「犀角」や「銀平脱合子」などが納められていた。犀角は5本あるが最大のものは長さ94センチ、根元の直径が16センチであった。「赤漆文欟木御厨子」の床板は当時のものが残っていたので、床板の大きさから、「赤漆文欟木御厨子」の幅は約85センチより大きくなることはないことが判明した。つまり、「赤漆欟木厨子」が失われたもので、「赤漆文欟木御厨子」は復元されたものであった。「赤漆文欟木御厨子」の床板はヒノキの一枚板であった。「欟」はケヤキであるが、床板はヒノキである。朝鮮半島では松が使用されるのが通常であるから、「赤漆文欟木御厨子」は国産品であると推定できる。
復元
赤漆文欟木御厨子は十二世紀末以降、明治期までに大破していた。1872年(明治5年)の正倉院宝物調査には赤漆文欟木御厨子は記載されていない。1892年(明治25年)に木内半古が苦労を重ねて修理し復元したものである。天井板、棚板、床板は新たに欅材で補った。昭和45年に発見された厨子の床板は長さ80.4cm、奥行37.0cm、厚さ1.5cmであった。木内による復元は極めて正確であることが判明した。
国家珍宝帳
国家珍宝帳の注記によれば、天武天皇?から持統天皇?・文武天皇?・元正天皇?・聖武天皇・孝謙天皇?の歴代天皇に相伝されたと伝わる。国家珍宝帳の原文は次のとおりである。
厨子壱口 <赤漆文欟木、古様作、金銅作絞具>
右件厨子、是飛鳥浄原宮御宇
天皇、伝賜藤原宮御宇
太上天皇、天皇、伝賜藤原宮御宇
太行天皇、天皇、伝賜平城宮御宇
中太上天皇、天皇、七月七日伝賜平
城宮御宇
後太上天皇、天皇、伝賜
今上、今上、謹献
盧舎那仏
飛鳥浄原宮御宇天皇は「天武天皇」、藤原宮御宇太上天皇は「持統天皇」、藤原宮御宇
大行天皇は「文武天皇」、平城宮御宇中太上天皇は「聖武天皇」、今上は「孝謙天皇」
である(太行天皇は大行天皇の誤り)。
厨子壱口 <赤漆文欟木、古様作、金銅作絞具>
右件厨子、是飛鳥浄原宮御宇
天皇、伝賜藤原宮御宇
太上天皇、天皇、伝賜藤原宮御宇
太行天皇、天皇、伝賜平城宮御宇
中太上天皇、天皇、七月七日伝賜平
城宮御宇
後太上天皇、天皇、伝賜
今上、今上、謹献
盧舎那仏
飛鳥浄原宮御宇天皇は「天武天皇」、藤原宮御宇太上天皇は「持統天皇」、藤原宮御宇
大行天皇は「文武天皇」、平城宮御宇中太上天皇は「聖武天皇」、今上は「孝謙天皇」
である(太行天皇は大行天皇の誤り)。
2つの問題点
ここで問題が２つあった。第一について平城宮御宇中太上天皇は元明天皇か、それとも元正天皇か。第二について「天武天皇」から「孝謙天皇」まで七代あるのに、なぜ六代に相伝されたのか。
第一の問題点
第一について黒川真頼は『万葉集』巻二十にみえる先太上天皇は元明であるから、中太上天皇は元正であるとした。喜田貞吉は文武の崩御後、皇位継承し、厨子を受け継いだのは元明であるとした。「中」は中継ぎの意味とした。田中卓は『興福寺流記』に引用された「山科流記』中の平城京時代の史料「宝字記」に先太上天皇を元明、中太上天皇をと元正ときされていると提示し、結論をみた(参考文献2)。すなわち、相伝関係は次のようになる。
天武→持統→文武→元正→聖武→孝謙（文武のあとの天皇の元明には相伝されていない）
天武→持統→文武→元正→聖武→孝謙（文武のあとの天皇の元明には相伝されていない）
第二の問題点
元明に厨子が相伝されなかった理由を、後藤四郎は厨子を天武持統系に相伝され、天智系には相伝されなかったと指摘した。直木考次郎は本厨子を皇位継承の象徴ではなく、成長期の教養をたかめるための品を収納していたから文武の崩御後に年の若い氷高皇女に伝えられたとした。東野治之は聖武の叔母である元正が『興福寺流記』に引用された「山科流記」に「神母」と記載していること、『続日本紀』で元明が聖武を「朕が子」（724年(神亀元年)2月4日条）としていることを踏まえ、元正は聖武の養母であったとし、母子関係の直系相続により、元明には相伝されなかったとした。森下和貴子は直木説の教養に資する参考書説も参考となるが、厨子を天武直系のシンボルであることが、元明に厨子が相伝されなかった理由とした(参考文献2)。
展示歴
- 1986年 - 第38回
- 1998年 – 第50回
- 2009年 - 『皇室の名宝―日本美の華』二期：正倉院宝物と書・絵巻の名品(東京国立博物館)
- 2019年 – 第71回
管理
- 名称 ：赤漆文欟木御厨子
- 倉番 ：北倉 2
- 用途 ：調度
- 技法 ：木竹工
- 寸法 ：総高100.0cm,幅83.7cm,奥行40.6cm
- 材質： 欅 赤漆塗 扉に金銅製�感�･金銅製鏁子 鋲は鉄製で頭に銀板をかぶせる
参考文献
- 奈良国立博物館(208)「正倉院展60回のあゆみ」奈良国立博物館
- 森下和貴子(2020)「赤漆文欟木御厨子」（『正倉院宝物の輝き』）里文出版
- 西川明彦(2012)「赤漆文欟木御厨子と赤漆欟木厨子」正倉院紀要34号,pp.53-70
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