縄文時代、弥生時代、古墳時代、飛鳥時代、平安時代など日本古代史の出来事と検討課題の考察を行う。考古学の成果も取り入れ、事実に基づき、合理的な歴史の再構築を図る。

金井下新田遺跡(かないしもしんでんいせき)は、群馬県渋川市にある古墳時代後期の遺跡である。

概要

東側は高さ20mほどの段丘崖に区切られる。「甲を着た古墳人」が出土した金井東裏遺跡?の南に隣接する遺跡である。6世紀初頭の榛名山噴火で発生した火砕流で被災した古墳人の歯及び馬が出土した。榛名山から北東の山麓に位置し、噴火口から8kmの位置にある。
金井下新田遺跡の集落の開始時期は5世紀中頃で、6世紀初頭の榛名山の噴火で終わる。
発見された馬は骨格だけでなく馬体の輪郭が残り、どのような馬が集落内にいたのかを具体的に明らかにできるものである。古墳時代の馬歯骨の発見例はあるが、全身骨格がわかる例は極めて少なく、大阪府四条畷市蔀屋北遺跡SK940や、長野県飯田市宮垣外遺跡SK10の埋葬例などに限られていた。遺跡出土の全身骨格及び渋川市白井遺跡群の馬蹄跡の統計的研究から、木曽馬に近い中形馬であったとされる。

調査

平成29年から29年に発掘調査を行い、6世紀初頭の榛名山噴火に伴う火砕流堆積物で埋没した金井下新田遺跡の5号竪穴建物から、古墳人の歯と馬2体(1号・2号)が発見された。6号竪穴建物からも馬とみられる獣骨1体が出土した。馬はいずれも、頭骨と四肢骨の一部が残存している。火砕流中に四肢を伸した状態であった。祭祀遺物は火山灰下にそのまま残されていた。土器や子持勾玉、臼玉、石製模造品などの祭具を用いた祭祀行為の具体的な様子や、一連の行為の経過がわかる可能性のある重要な発見である。

遺構

噴火直前の集落は建物の有無や種類により3つのエリアに分かれる。
  • エリア1
    • 北側部分で、垣根で区切られた区画とその内側の畑や小規模な祭祀遺構、平地建物群を検出した。平地建物は6棟で、うち4棟は屋根があった。上部構造が推定できる状態で平地式建物が発見された例は極めてまれである。屋根がなく、解体されていたと考えられる1棟から鍛冶炉が検出された。平地建物の鍛冶工房が明らかになった。残存状況が良好な平地式建物の鍛冶遺構は、全国的に見ても珍しく貴重である。
  • エリア2
    • 中央から北側で小規模な土器集積と竪穴建物群を検出した。
  • エリア3
    • 南側の調査区で「囲い状遺構」とその祭祀遺構群を検出した。網代垣で方形に囲い込まれた地域首長の拠点施設と考えられる。網代垣は1.8メートル間隔に立てた角柱に、植物の茎をよしず状に編んだものを両側から網代で挟んで取り付けた構造である。厚さは30センチメートルである。囲い状遺構の内部は低い垣で東西に区画され、東側の区画の中央には大型住居(1号住居)と小型の竪穴遺構(1号竪穴)が、西側の区画の中央には3間×5間の総柱の掘立柱建物(33号掘立)とその南側に直径約3メートルの円形建物が整然と配置されていた。網代垣は網代と横桟を、蔓状の植物で巻き留めた痕跡も確認された。網代垣の柱材はすべてクリであった。網代は径1.5cmのタケ亜科を4本1組で使用し、イネ科草木の葉を除去し、茎だけを使用していた。

遺物

  • 1号馬:年齢は2歳未満の仔馬、性別不明。馬体の左側を上にして建物中央から発見された。
  • 2号馬:年齢は3.5歳未満、性別はメスの可能性がある。馬体の右側を上にして建物の東壁際で発見された。
  • 古墳人の歯は2体の馬の間から発見されたもの。10代と推定される上顎第2大臼歯1点が残存していた。エリアの垣根の外側で8歳前後と11歳前後の子供2人と仔馬2頭とメス馬1頭が、噴火以前に廃棄されて埋没しかかっていた竪穴建物の窪地に落ち込んで、火砕流に埋まっっていた。子供が馬の飼育に関わっていた可能性がある。8歳前後の子供は勾玉と石製の管玉の首飾りをしていた。

放射線炭素年代測定

1区2号3号炭窯出土の炭化材を加速器質量分析法(AMS法)で分析(Intcal20)したところ、2号炭窯の年代は7世紀後半から9世紀後半、2号炭窯の年代は8世紀初頭から9世紀後半、8世紀後半から10世紀前半、8世紀後半から9世紀後半の暦年代が得られた。炭窯の年代は概ね飛鳥時代前期から、平安時代前期に相当することが判明した。
金井下新田遺跡の集落の存続期間との矛盾が見られる。

植物

竪穴建物に敷設された竈の埋土や灰を植物珪酸体分析したところ、イネ、ムギ、ヨシ、キビ、ススキが確認された。2号炭窯で出土した炭化材はすべてクヌギ節であった。クヌギは燃料材としては火持ちがよいのが特徴である。

類例

  • 金井東裏遺跡?

指定

アクセス

  • 名称:金井下新田遺跡
  • 所在地:群馬県渋川市金井字下新田1643番地1他内
  • 交 通:JR渋川駅3番バスのりばから青葉台団地経由りんご団地線、若しくは5番バスのりばから神田原・祖母島線乗り、「金井中の町」で下車、徒歩5分

参考文献

  1. 文化庁(2022)『発掘された日本列島2022』共同通信社
  2. 群馬県埋蔵文化財調査事業団(2021)『金井下新田遺跡<古墳時代以降編>』
  3. 群馬県埋蔵文化財調査事業団(2021)『金井下新田遺跡<古墳時代以降編> 分析論考編』

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