白石鎮子 寅・卯(はくせきのちんす とら う, Relief marble weight. With tiger and rabbit in relief.)は、正倉院に保存されている大理石のレリーフである。
十二支のうち寅と卯を組み合わせた図柄のリリーフである。正倉院に四神と十二支を大理石製の板1枚に2体ずつ浮き彫りにした品が8枚伝わる。すなわち白石鎮子は「子・丑」「寅・卯」「辰・巳」「午・未」「申・酉」「戌・亥」の6枚と、「玄武白虎」「青龍朱雀」の2枚からなり、合計8枚である。
本作は虎が体を曲がりくねらせ、兎に覆いかぶさる構図である。2つの動物を組み合わせる文様は紀元前3世紀から前6世紀のスキタイなど西方起源と考えられている。本作は四神に東洋起源の十二支を組み合わせる東西融合の文化を示している。
現在のロシアやウクライナにいた古代の遊牧民族スキタイの芸術に表現される「動物闘争文」の影響とみられているものの、動物の闘争には見えないとの説がある。
現在のロシアやウクライナにいた古代の遊牧民族スキタイの芸術に表現される「動物闘争文」の影響とみられているものの、動物の闘争には見えないとの説がある。
鎮子は重しの意味であるが正確には用途不明である。建築物の壁にはめ込まれた装飾板という説がある。「国家珍宝帳」記載の白石鎮子に比定されていた。しかし記録には「白石鎮子十六箇 師子形八 牛形六 兎形二」と記載されているが、実際に残る宝物の数や描かれたものの種類が異なっている。宝物の裏面が研磨されていないこと、814年(弘仁5年)に貸し出されて、その後の返却記録がないため別物説が有力となっている。国家珍宝帳記載の宝物は本作とは別物とみられる。大阪市立美術館?の内藤栄館長(仏教美術史)は、唐・太宗の陵墓の碑(7世紀前半)の台座に施された文様に着目している。台座には、2体の神獣が向き合うように配置され、周囲には細かく渦を巻く雲形文が表現されている。内藤館長は「白石鎮子とモチーフは完全に一致する。重しではなく、何らかの台座の側面部分だったことはまず間違いないだろう」と語る。
- 奈良国立博物館(2022)『正倉院展 第74回』仏教美術協会
- 益富寿之助・山崎一雄・藤原卓(1988)「石製宝物の材質調査報告」正倉院紀要第10号
- 「重し 実は台座の飾り板 ?」読売新聞2022年11月11日
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